「……むずかしくて、よくわかん……ない……」 ぽふっ、と。 彼。Aの顔、見たくないとかじゃないけど。 嘘じゃないよ。 難しいことばっかり言ってあたしをどんどん眠くさせるAが、途中から、手元で開いてる本をちっとも見ずにあたしの顔をずっと見てたから。このままだと、Aにぜんぶ見られちゃうと思って。眠りに落ちる瞬間まで、じいっと見つめられるなんて嫌だ。 うん。 キスしてたんだ。A。 キス。キスだよ! 眠ってる時にそんなことするなんて、だ、だ、だめだ。 だめ……。 だって、眠ってるんだよ、あたし! あたしがどれだけ怒ってもAはけろりとしてたけど、してたから、こうして、眠くなったら背中向けることに決めた。これならAだって悪戯できないもの。うん。 「リリィ。眠るのかい」 「……うん」 「すまない。話が脱線してしまった。 「……」 「反省している。 「……Aのせいじゃ、ないよ」 「僕はメスメル学に基づく学説だけを語るつもりだった。 ──え。 「……具合、悪いの?」
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そんな話を聞いたら眠れないよ。 あたしたち、ふたりなんだよ。 だからさ。 もし、きみが、具合、悪くて……。 もし、困ってるのなら。 あたしに言って。 あたしの我が儘、いつでも訊いて、 いいんだよ。 きみは、いっつも文句も言わないんだから。 あたしはちゃんときみの顔を見ないとわからないよ。 背中向けて── 肝心な時に── 気付けない── 「……A、もし、風邪、とか、ひいてるなら」 「いや」 「……え、えと、あの、ね。あたし」 「いや」 「……あたし、きみに」 「いや。ああ、誤解させたならすまない。 ……。 「リリィ」 ……。 「リリィ。眠ったのかい」 ……。 …………。 不調ってなに、なにそれ! 新しい本を読み始めたせいで気もそぞろってこと!? ふんだ! ああ、もう、知らない。知らない! どうせ……。 ふん、だ……。 「リリィ?」 知らない……。 「おやすみ。リリィ」
──ふん、だ。
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