青空を導く朝陽の訪れを見守りながら、あたしは思う。
あのひとと出逢わせてくれた運命を。
本当に、本当に、今でも到底信じられないほどの偶然だったのだと思うから。
昨日出逢ったあのひと。
緑色の髪をした、緑色の瞳の、ヤーロ・マク=ラド。
あたしたちを飛空艇でこのレン大陸にまで連れてきてくれたカルベルティお兄さまたちがあのひとと顔見知りであったことは、後から聞いた。
まさか。まさか。青空の下で。まみえることになるなんて。
カルお兄さまもきっとそうだと思う。
お兄さまは、帝都で会ったのだと仰っていたけれど、きっと驚いたはず。
それは帝国暦元年よりも以前のこと。
ずっとずっと昔のこと。正確には2210年前のこと。
あたしの頭脳に埋め込まれた数秘機関(クラッキングエンジン)は、その時のことを正確にあたしへと告げる。自動検索。あたしは、あたしたちは、皇帝血族としてこの世に生を受けた人々は皆、それぞれの家系ごとに“言葉”を与えられている。
いつか、世界の果ての壁を越えて。
帝国へと来たる《使者》を迎えた時には、言葉を。
約束された言葉を告げよ、と──
──初代皇帝から伝えられたもの。
──多くの皇帝血族の使命であって、義務であって。
お祖父さまは最後まで気にしていらしたわ。
自分の代でそれを果たせなかったことを。
お父さまやお母さまに、あたしに、それを、継がせてしまうことを。
でも。でも、お祖父さま。
伝えられた。
伝えたわ。
皇帝家の姫となってからは失われたはずだったその義務を、偶然、本当に偶然に、あたしは果たしてしまった。朝露に濡れる砂漠の草花が陽に輝くように、当然のように、必然のようにして、あんなにも簡単に。
だから、あたしの、妾の“家”に血族の憂いはもう何もない。
言葉を伝えた刹那の間に、消え失せてしまったはず、なのに。
そのはずなのに──
──そのはずなのに。
──何なのだろう。この、寂しいような、切ないような。
「クセル」
「うん?」
「そろそろ飛空艇を発進させるって、カルベルティさんたちが。行こう?」
「ええ。アスル」
あたしはアスルを見つめる。
あたしに手を差し伸べた彼、今も、ほら、こうして。行こう、って声を掛けながら。
バベッジ式碩学式飛空艇のタラップを上がったあたしの手を、優しく取って。
強く握って、あたしは。
考えていたの。
あのひとの、あの、緑の髪の彼女のことを。
あのひとの、あの、何故だか流してくれた涙を。
なぜそう思ったのかは分からない。
帝国と《皇帝家》に存在する情報のほぼすべてを詰め込まれたはずのあたしの情報領域にさえ、その回答はなかった。
でも。
でも。
やっぱり、あたしは、あの時……。
まるで、あのひとの横顔に見えた涙の煌めきは。
恋の果てのように見えて。
願いの雫ようにも見えて。
愛のようにさえ。
そして、何よりも──
「……アスル」
|