無頼船、洋上のふざけた浮遊物体、海のはみ出しモノ信天翁号。その船自体が非常に悪目立ちすることもさりながら、乗り合わせる船員達もエキセントリックかつ悪辣な事で悪名高く、港につくとなると事情に通じた者は一騒動やむなしと諦観するという。
ただ彼ら船員の中で、見た目だけはか弱い、そして病弱そうな、いわば暴虐な乗り組み一行の中でも不釣り合いさ加減が際立つのが、アルビノの少女クロである。
この日陰の幽霊茸のような少女があの信天翁号の中で良くも暮らしていけたものとそれだけでも驚嘆すべきであるのに、なんと彼女は信天翁号の船長と船内では位置づけられている。その二つ名も『嵐を呼ぶ船長』と勇ましく、船が暴風雨に襲われた際など、神懸かった働きを見せるらしい。
そんな、乗り組み中でもひときわ奇妙な彼女の一日を追ってみよう……。
―――船長クロのひなびた一日―――
■某月某日 風量二 空やや曇り 波さざなみ
今日もあさ、目をさます事ができた。あさ、起きられるのっていいなておもいます。メイトとか、ねむたまま起きられないかもしれないとかおもわないんだろな。いいな。
かみの毛がからまっていたので、ほどいてたらもっとからまりました。あとで水夫の誰かにほどいてと頼みます。
着がえます。ぱんつはきのうの夜あらって、だからきれいです。まだ乾いてないくて、冷たいけれど、他のないからはくです。お腹が冷たいくて、すぐにおトイレにいきたくなる。
ゆうべは寝るまえにきかん長からこわい話聞いたから、おトイレにいけなかったので、いまはとても大変いきたい。
おトイレまで走る。とちゅう、何回かぶつかったり転んだりでいたくて、でもクロはがまんした。がまんしたけれど、おトイレはボースンが使てた。なんかいかノックして入れてくださいたのんだけど怒鳴らり。た。
「ばか野郎、こちとらゆんべのゆで卵にあたって大変なんだ。他をあたれ他を」
て怒鳴らりた。でもクロも大変。もっと大変。がまんしすぎてお腹いたくなてきた。なんだか気持ちも悪いです。他のおトイレまで間に合う、ないです。でもおもらしは、すると怒らりるし、お服のかえもないです。
クロはだから考えた。それはいしょうけんめ。考えますた。だから考えたからクロは、近くの、『船長の箱』に行った。
狭いくて臭いくて暗いけれど、おまるがあるからです。もうちょと歩いただけでも漏りそうだたけど、間に合ったよ。
ああ、ああ、気持ちいー…………。
『おういそこの水夫君、君らちょっと手を貸してくれんかね』
『なんです、朔屋さん、僕ら今見ての通り、このバラスト運ぶので、ちょっと手が……』
ん? あれ? 朔屋さんと水夫さんたち。
なにか『箱』の外でいっている。
『いいからいいから。そんなのは、ちょっとそこに置いておいてさ。積み荷のしわけ、俺一人の手じゃたりんのよ。あとでまだしなびてないオレンジ、一人あたま二個。どうよ?』
『もー……。しかたないなあ。あんまり時間はかけらんないよ?』
『ああ、君らが手伝ってくれりゃ、すぐおわるって』
え? ごとん、てなに。あの? 朔屋さん。水夫さん。クロいてるよ。ここにいてるよ。
とんとん中から叩いても、お返事、なし。心配になって、ふた、押しまいた。あきません。あかないの。力をこめた。ぴくりとも動かない。なにかふたに乗っかってる。クロには動かせない。
あれ? あれ? クロここにいてるよ。行かないで。いかないでえ?
どんどん叩きます。でも開かない。いっしょけんめ、押してみます。開かないの。
開かない、開かない、出して。クロをここから。くさいの、あっ。いま。おまるひくりかえしちゃた。もっと臭いよ。でも開かない。くらいの、やなの、お靴におしっこしみてきたの。気持ち悪いよ、悪くなてきて、なんか、のどのあたりぐるぐるしてきて。
うえええええええええええええっ。
げー、げええええ。うえええええっ。
えふ、こぱっ、えれれれれれ……。
あー……。あー……。
クロ、ゲロしちゃった。くらいからわかんないけど、たくさん吐いちゃったよう。靴にもかかった。でもだしてもらえない。くさくてくらくて、クロ、頭が───
今日ははだしです。なぜならお靴はあらて、乾かしてるから。レギンスの下も、なにもはいてません。クロ、きぜつしてる間に、その……まみずがまだ残っている時で良かったなぁって、朔屋さんに笑われました。
朔屋さんはいい人です。クロを出してくれました。パンツとお靴のせんたく、手伝てくれまいた。あれ? そういえばどしてクロは、閉じこめられたのだったけ。
クロは時々ボーってなります。頭のなか白くなて
気がついたら、顔がしょっぱかった。スープのお皿の中でぶくぶくぶく。クロ、あれ? そです。お昼ご飯食べてた。あれ? ええとこれは、ぐりんぴーすとベーコンのスープですた。ぐりんぴーすは好きくないので、よけているうちに、だんだん、眠くなてきて。足がすうすうするのはどうして。ああそうだ。おしっことゲロで汚したから洗ったからだった。クロ覚えてた。もしかしてクロはえらいかも。グリンピースは嫌いだからよけないと。でもどうして顔がスープがべとべとで、髪までべとべと? シサムさんが、なんか怒った顔でクロを連れてった。まだお昼ご飯のとちゅうだたけど、連れてった。
「まだ真水のあるうちだからいいけどさ、クロな、食べてる時に寝るのはよそうや、な?」
なんか同じよなこと、誰かに言われた気がしたので、おかしかったので、わらたらシサムさんにくすぐられました。叩かれるより痛いくはないけど、くずくられて、くすぐったくて、くるしくて、少しだけクロ、少しだけね。泣いちゃった。おしっこ少しもれたから。
ご飯のあとはおしごとです。今日はおてんきがいいので、ゆうべ水夫さん達が釣ったイカを乾して乾かします。そうえもんさが見に来て、でも猫さんはイカだったから食べらりないの。たべられないのに、ずとそばにいました。ときどき出てくる、ネズミを凄いいきおいでつかまえて凄い。クロは凄いとおもたからそうえもんさんにありがとうというと、通りかかったボースンにごつんてやられた。
「クロよう。おめえさんな、イカ乾すの見張りくらい、しっかりやってくれや。お前これ、宗右衛門がいなかったら何匹ネズミ引かれてったかわかんねえぞ……」
ああ。そういえばそうなのでした。でも、こぶがきれいに円くなったから。朔屋さんに見せにいきたいのです。そうボースンにいったら、今度はお尻をひっぱたかれていたい。
晩ご飯、食べたらだめ、といわれます。ボースンに怒っていわれます。なので、お部屋でしかたなくて、クロのたかぁもの、ならべてきれいに分けてしまうです。少しだけ、気にならなくなります。
あり。なんか外で音、したよ。のぞいたら、そうえもんさだた。乾パンのふくろ、くわえてきておいていた。そうえもんさんは凄くつよくてこわいけど、すごくやそしい時もあて、すごい猫さんです。お礼にクロの一番のきらきらあげようとしたら前の足でけって返されました。そうえもんさん、クロのきらきらなんていらないのかな。たぶんそうえもんさんのお目々、クロのきらきらよりきれいだものね。
乾パンは、お水なしに食べてたら、のどに詰まって、のもうとしてもできなくて、お胸どんどん叩いてもでものめなくてクロは息がくるしい。いき。が。できな
今日も目をさます事ができますた。
朝起きられるのって、いいておもいます。
でも今日は、まず、なんだかゆかに散らばった乾パンとゲロのお掃除をしないといけないの。
───おそうじしているうちに。
───なんかね。クロ。
───哀しくなてきちゃった。
───クロ、どうしてこうなのかな。
───みんなみたいに、ちゃんとなりたいな。
───はやく嵐が、こないかな。
───そしたらクロは。
───みんな、クロのこと、凄いていってくれるかな。
ついしん。そうえもんさんへ。
乾パンおいしかったです。
お腹、減っていたので、ありがとうでした。
あと朔屋さん、今度は『箱』になんか乗っける時、クロがいないかどうか、たしかめてね。
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